君に花







『あー、お前。俺、見たことある』

『金谷のダチだろ、お前』

そういって
密かに憧れていた先輩からいきなり声を掛けられた。
金谷とは確かに友達だが、まさか自分の事も知られていたとは。
俺は動揺した。
動揺しすぎて飲んでいたパックのイチゴ牛乳をこぼしてしまった。
手に力がはいりすぎたらしい。
それが始まりだった。


同じような色が溢れかえる中、俺は先輩の姿を探して走っていた。
泣いたり笑ったりして、写真を撮りあっている。
卒業式の間、ずっと見ていたのに。
なぜか
背の高い、ひょろりとした姿がこの人ごみの中で見えない、見つからない。
先輩、俺、言いたい事がある。
今日じゃないと言えない事。


『お、今、帰りなの?』
『いーよ。送ってってやるよ』

そう言って、バイクの後ろに乗せてくれた。


『おっまえ、かわいー奴だなぁ』

そう言って頭をくしゃくしゃにされた。


『飲み会やるんだけど、来ねぇ?』

そうやって誘ってくれた。



そーゆう、先輩がしてくれた色んな事に。
俺は胸を高鳴らせていた。
その理由を今まで見ないふりしていた。
不自然だと思ったから。
先輩が遠ざかるのが怖かったから。
でも。
今日は。
伝えなきゃいけない。
そうでないと、俺はずっとこの場所から動けない。



もしかしたら、と思って
屋上に向かった。
そこは先輩のお気に入りの場所だった。
人気のある人だから、大勢に囲まれているかと思ったんだけど。
もしかしたら、いるかもしれない。

屋上のドアを開ける。
案の定、赤い頭のひょろりと背の高い人がいた。

「…先輩」

俺は声をかけた。
みじめったらしく震えた声。
煙草をふかしていた背中がゆっくりと振り向く。
足元には、後輩達からもらったんだろう花束が転がっている。
俺の目線で気づいたのか、先輩は煙草を踏み潰し、花束を拾った。
そして、俺の方へ近づいてきて、花束を差し出してきて

「お前にやるよ」

と、言った。
俺はイキナリの事にびっくりして慌てて言った。

「そんなの、もらえないです!」

俺の方こそ、先輩に花をあげる立場なのに。
でも先輩は花束を引っ込めない。

「やるって」
「どうして…」

俺は先輩の変な強情さを不思議に思った。

「どうしてって」

と、先輩は続けた。

「お前の方が、似合うし」

そう言ってニヤリと笑った。
俺はこの人のこの表情がすごく好きだった事を思い出した。
どうしよう。
この人が好きだ。
すごく、好きだ。
伝えなきゃ、言わなきゃ。
先輩は春には東京に行くと言う。
大学に進むんだそうだ。
もう、俺と同じ制服を着た、先輩には会えない。
今日で最後。
焦れば焦るほど、言葉は出てこない。
俺は金魚のように口をただパクパクさせていた。
頬には涙。
泣いている場合じゃないのに。涙しか出てこない。
俯いている俺の頭を、先輩はいつものようにクシャクシャかき混ぜた。
だけじゃなく。
抱きしめてくれた。
俺がじっと固まっていると、頭上から息を吐く声が聞こえた。

「あー、良かった。抱きしめて、めちゃくちゃ拒否られたらどーしようかと思った」

俺は先輩を見上げた。

「お前、俺の下心、気づいてなかったろ?」

なんの事だろう。
それより、先輩。
俺は言いたい事がある。
それを感じ取ったのか、先輩は笑って言った。

「ま、ゆっくりイチゴ牛乳でも飲みながら話しますか」

俺も、ずっと言いたかった事があるんだと、呟くのが聞こえた。
先輩。来年の春には俺もこの制服を脱いで東京に行くよ。








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