アイボリー








「香川、今週の土曜に飲み会あるから来いよ」
「飲み会っすか?」


最近働きだしたバイト先の先輩に、休憩室でそう声をかけられた。
まじかー。
俺、酒弱いのに。なんとか断れんやろか。

「てか、お前の新歓なんやからな」

うえ。ほな、行かん訳にはあかんわな。
しゃーない。
これも付き合い付き合い。
ここ、自給もええしな。
新歓ちゅー事は、もちろん奢りやろうし。
酒自体は好きやしな。
まぁ、あんまり飲みすぎて羽目はずさんようにしよ。


そんな決意をして行った土曜日の飲み会。
(この人ら、新歓ゆうて自分らが飲みたかっただけなんちゃうか・・・)
と、思ってしまうくらい場は盛り上がってる。
・・・こんなに盛り上がってると俺も盛り上がりたくなるやないか。
いや、あかん、俺の酒癖の悪さをここで出してもうたらヤバイ。
まだ、入ったばかりやしな。
我慢我慢。そんな事を思いながら先輩方が進める酒を、やんわりと断り続ける。
ああ、飲みたい・・・。

「そんなに飲みたいんやったら飲めばええやん」
「うわっ」

びびった。
なんや、こいつ。
いきなし話しかけてくんなや。
俺の隣に座ってる男は見たことが無い奴。
確か、さっきまで俺の隣は岸上さんやったはずやけど。
あ、そういやこいつ別の席で南さんと香織ちゃんに挟まれて座ってた茶髪や。
甲斐甲斐しく女の子たちに酒をつがれてた。
密かに、南さんて美人やなーとか思ってた俺はちょっと残念やったんや。
や、別にええねんけど。
てか、なんで俺の隣に来てんねん。お前やないんやて、隣に来て欲しい子は。
俺の心の叫びを知らず、そいつは俺にどんどん話しかけてくる。

「そーいや、俺ら同じシフトになった事ないやんなぁ。俺、斉藤ゆうんや。よろしく」

ああ、どうりで。見たことないはずや。

「でも、俺は知ってたで?香川クンやろ、自分」
「え、なんで知ってるんすか?」

一応、敬語をつかう。一応、質問しとく。
しかし、馴れ馴れしい奴やな。

「や、噂で。後、一回見たもん。シフト表を取りに店に行った時」

ふーん。そかそか。
つうかあんまし興味ないねん。
自分で聞いといてなんやけど。
俺が興味あるのは、南さんが何カップやっちゅー事や。
まぁ、でもこれからバイトで円滑にやってく為にニコニコして

「へー、そーなんすかぁ」

とか言っとく。
あー、酒飲みたいわ。

「香川クンて歳いくつなん?」
「19っスけど」
「え、何月生まれ?」
「8月です」
「なんや〜、タメやん」

ほんまにか。
なんかこいつ年上っぽかったのに。

「俺も3カ月前に入ったばかりやし、タメ口でええで?」
「あ、そーなんすか」
「ほなから、タメ口でええてゆーたやろ!」

バシっと突っ込みをわき腹にくらう。

テンション高いやっちゃなー、コイツ。ちょっとウザい。

「なぁ、香川クンてほんまは酒好きやろ?」
「え、なんで分かるん?」

そういや、コイツさっきも見透かすような事を言ってたような。

「ほなって、めっちゃ酒を見よるもん。あ、ほら、ヨダレでてるで!」
「まじで!?」

とっさに手を口に持ってく。

「・・・出てないやん」
「冗談に決まってるやんか。ソレぐらい気づけって」

アホやなーと大口あけて笑う斉藤。
ほなって、ほんまヨダレが垂れそうなくらい酒飲みたかってんもん・・・。

「無理せんで、飲めばええやん?奢りやで?」
「やー、俺、酒はめっちゃ好きなんやけど弱いんよ。しかも酒癖が悪いし」

本当の事を斉藤にいう。
ちょっとうざい奴やけど(南さんの事もちょっとあったし)同い年なのを知ったせいか、意外と話しやすい奴だって事に気づいた。

「なんや、そんな事かいな。酒癖悪い奴なんてようけおるやん。周り見てみ?」

ほなから気にするなと、斉藤は言った。
た、確かに周りの暴走っぷりはすごい。
うわ、小西さんなんて脱ぎだしてるし。

「な、酔っ払っても俺が面倒みてやるから。なんなら連れて帰ったってもええし」
「斉藤クン、俺の家知らんやろ」
「あ、ほんまや。なんか前からのツレのよーな気がしてたわ」

といってニカっと笑う。
でけー口。なんか喰われそうやな。

「な、せっかくなんやし」

斉藤は生ビール二つね、と店員に勝手に注文した。
そして、俺の決意はもろくも崩れたのであった。


一杯飲むともう歯止めが利かない。
ほなって、金が無かったから最近飲んでなかったし。

「よっしゃー、一番、香川幸弘。ミッシェルいきまーす!!いぇー、スモーキンビィリィー!!」

場所はカラオケ。二次会。なんかもう訳分からんけど、たのしー。周りも最高潮に盛り上がっている。
歌い終わって、どかっとソファに座る。
すると隣の奴が話しかけてきた。

「香川、歌うまいなぁ」

なんや、斉藤か。
こいつ、また俺の隣座っとんか。
あーあ、南さんに香織ちゃん不貞腐れとるやないか。
でも、まぁいー気分やからどーでもええけどな。
カラオケの中は大音量なので、どうしても耳に口を近づけてしゃべる事になる。

「なぁ、他にもなんか歌ってやー」
「お前も歌えや、斉藤ー」
「いやや、音痴やもん」
「俺、もお眠い」

そう言って目を閉じる。

「ほな、俺の肩貸すで?」
「ほんまに〜?斉藤ええやつやなぁ」

遠慮なく肩を借りる。
男物の香水の匂いがする。

「・・・斉藤、ええ匂いするなぁ」

と、ついぼそっというと

「こうやるともっと嗅げるでー?」

と言って、ギューっと抱きしめてきた。
あー、なんか気持ちええなぁ。
人の温もりって。
ここんとこ、彼女もおらんかったしなぁ。
そんなわけで。無意識のうちに斉藤の胸にほお擦りした。
すると斉藤の動きが、とまった。

「・・・っかー、たまらんなぁ」

低い、苦笑まじりの呟きが頭の上から聞こえたかと思うと。

「三十番、斉藤秀明。香川クンが調子が悪いよーなんで、お持ち帰りします!!」

いきなり、斉藤が立ち上がって叫んだと思うと俺の手を引っ張ってカラオケルームから連れ出された。
後ろからは女の子達の不満気な声と男達の、お持ち帰り、お持ち帰りとふざけて連呼してる声が聞こえていた。
俺は、引っ張られるままだった。
酒に、酔ってたもので。
ちゅーか、あかんて。
急に走ると。
アルコールが・・・・。



次の朝、起きると裸だった。
あらぬ所が痛かった。
そして、隣に斉藤が満足気に寝ていた。
もちろん裸で。

・・・・・やっぱ、酒なんか飲むんやなかった。







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